わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「途中で何か映像が見えるかもしれません。ただ見ていてください。どんどん流れていきますから、立ち止まらないで」
「はい」
姫はだんだんワクワクしてきた。何が見えるんだろう、と頭の鈍い痛みさえ忘れそうだった。
先生がベッドの頭のほうに回り込んでくる気配がした。
「失礼します」という声とともに、姫の側頭部を先生の両手が静かに包み込んだ。
耳も覆われているせいか、巻貝を耳に当てたような海にいるような気がした。
そして、だんだん意識が遠くなっていくような感覚。
突然、石畳が見えた。石畳の坂道を歩いているひとりの女。
モノクロームの映像だからか、寒々しい冬の曇った空。
日本ではない。どこだろう、ヨーロッパのような感じだ。