わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

「先生、わたし、どうしてたんですか」

「途中から泣きだされて、あまりにも辛そうだったので、声をかけました」

「助けてあげられなかったんです、わたし。それで……」
思い出したのか、姫は泣きじゃくった。

「大丈夫ですよ。……後頭部の痛みは、いかがですか」

「あれ? 軽くなってるみたい」

「良かったです」

「あの石牢に閉じ込められていたのは誰なんですか」

「誰だと思いますか」

「おかあさん、かな」

「助けてあげられなくて、外側で泣いていたのは?」

「わたし、だと思います。……先生にも見えてたんですね」



< 21 / 82 >

この作品をシェア

pagetop