わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
姫はベッドの上に座ったまま、先生のほうにからだを向け直すと静かに言った。
「先生、口移しで飲ませて」
甘えた口調ではなく、半ば命令的な物言いは、姫独特の一種の照れ隠しだった。
先生はきっとさっきのだって、わかってて席を外したんだ。だから、口移しで飲ませる義務がある。
姫は自分でもおかしな論理だと思う一方、先生が絶対するであろうという確信もあり、強気だった。
先生は少し困ったような、照れたような顔付きで、ハーブティーをふぅふぅと冷ますと、ひとくち口に含んだ。
そのままゆっくりと、姫のいるベッドのほうに近づいてきた。
さっきとは違って、愛しい者を見つめる柔らかな表情だ。