わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

家に着いた。
珍しくおかあさんが玄関で迎えてくれた。

先生の言っていた通り、いつもと違って優しい穏やかな顔付き。
話さなくても、心が通じているような安心感。

もしかしたら、やっぱり近未来に来ちゃったのかな。
姫は少し心配になった。
近未来では、みんな会話なんてしなくても、思っただけで伝わっている。そんな話を聞いた気がする。

「お腹空いたでしょ、早く手洗いとうがいしてらっしゃい。あなたのお祝いするの、みんな待ってたのよ」
おかあさんが促す。

初めてだ。わたしのお祝いだなんて、おかあさんの口から聞いたの。
いつもは、イエスさまのお産まれになった日だから、と言うのに。

家族みんなにお祝いしてもらった、初めての誕生日。


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