不機嫌なジェミニ
ゆっくり目をあけると、
ジンさんがベッドの横の机でノートパソコンを開いている。

「起きたか」と私の顔を見て、おでこに手を当て、

「まだ、熱いな。」と眉を寄せて私の頬を撫で、グラスの水を渡してくれた。


結構近い距離。急に私の心臓が大きく飛び跳ねる。

「あ、あの、家に電話を…」と水をゴクゴク飲み干して言う。

壁の時計は12時をすぎているようだ。
連絡もせず、こんなに遅くなったらいくらなんでも、きっと香澄も心配しているだろう。

「さっき緊急連絡先になってた妹さんには連絡しておいたよ。
デートの途中で熱を出したから部屋に泊めるって。」と、ジンさんは空になったグラスと体温計を交換する。

デート…
家に泊める…

それって結構誤解を生む表現のようだけど…

「…妹はなんて…」と体温計を挟みながら恐る恐る聞くと、

「オネーチャンをよろしくお願いします。って言ってたな。
初めての恋人ですって…
んー、まだ、37.8度ある。下がりきってないな。明日、熱が下がらなかったら、病院行くぞ」と顔をしかめて私の髪をなでる。


香澄ったら、余計な事を…

「えーと…帰ったら、誤解は解いておきます。すみません。」

「トウコの方が誤解しているんじゃないか?」
俺はただの部下を休みの日に誘ったりしないぞ。」とジンさんは楽しそうに私の瞳を覗く。

…もしかしたら私って

「た、ただの部下じゃなくって…つ…使えない部下?」

「…使えても、使えなくても部下は部下。」と呆れた声をだし、

「俺にとってトウコは特別だ」と私に微笑みかける。


「…ペット…だから?」と意味がいまひとつ分からず、ジンさんの顔を見上げると、


「鈍すぎるぞ、トウコ。俺のオンナになれ。」

とジンさんは私を真っ直ぐ見つめて
驚いた顔のままの私にゆっくり顔を近づけ、
私の唇に唇をそうっと付けた。

き、キスされてますが…

思わずギュッと目を閉じる。

…これは…きっと夢?

と熱のある頭でぼんやり思いながら、
ジンさんの柔らかい唇が何度もそっと私の唇に触れるのを感じるけど、
また、フワフワと眠りに落ちていく。

「…トウコ、寝るのか?この状況で…?
こら、トウコ…」とジンさんの声が耳のそばでなんとなく聞こえるけれど、

私はこの状況で目覚めるのが怖くてそのまま、眠りに体をゆだねた。

だって…
信じられないでしょ。

大人のジンさんが
…私を自分のオンナにしたいだなんて…





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