不機嫌なジェミニ

午後になって、ジンさんが外出から帰って来る時、某有名スイーツ店で、私の好きだと話したプリンを買ってきてくれた。

私と蘭子さんが喜び、

「コーヒー淹れてきますね。」と私が給湯室に立とうとすると、

部屋のドアがバタンと開いて、綺麗な背の高い女の人が入ってきた。

「ジン、久しぶりね」と真っ直ぐジンさんのデスクに歩いて、

「…」立ち上がったまま、驚いているジンさんにギュッと抱きついた。

女優さん
…確か木村 冴子（きむら さえこ）さんだ。

確か、40歳をいくつか過ぎているけど、とてもそんな風に見えない。
清純派女優さんだったけど、今は美しい母親の役をしたりしている。

「木村さん。離してください。」ジンさんは冷たい声と、強張った顔をして、突っ立ったままだ。

「レン君に何度頼んでも、ジュエリーを作ってもらえないから、直接頼もうと思って…」
と木村さんがジンさんから離れてにっこり微笑んだ。

「レンが引き受けないなら、俺も引き受けないよ」と静かな声を出す。

「私ね、今年、大きな賞を受賞する予定なの。
ずっと目標にしてたきた、シリウス賞に今度の映画で主演女優賞の候補に選ばれたのよ。
素敵でしょ。ジン君の作るジュエリーを付けて出席したいの。
もちろん、普通のじゃダメよ。
ほら、ジン君が私のために作った指輪みたいに…
これも日本の有名なダイヤモンドコンテストで賞をもらったでしょう。
『雫』の後にコンクールに出す予定のモノ。
『暁（あかつき）』っていうんでしょ。
次の作品。もう、製作に入ってるはずよ。
ちゃんと、『ジュエリー アクエリアス』で聞いてきたのよ。」と美しいダイアモンドの指輪を見せて微笑む。

「断る。帰ってくれ」とキッパリジンさんが言うと、

「ジン君、まだ怒ってるの？
私が結城（ゆうき）と結婚したのはお金のためよ。
わかってるでしょ。あなたはまだ、何も持っていなかった。
仕方ないじゃない？」とちょっと顔をしかめて直ぐにまた微笑む。

ジンさんが拳を握っているのがわかる。

…怒っているのだろうか？