クールな部長とときめき社内恋愛
「えっ、俺のも?」

「おかず詰めるだけのシンプルなお弁当になると思いますけど、それでもいいですか」

自分の作ったものを食べてもらいたいって、もっと素直に伝えられたらいいのに。どうしても照れが先行してしまう。

「手作り弁当か、すごい楽しみ」

「そ、そんなに期待しないでくださいね!」

楽しみにしてくれるなんてうれしいし、張り切って帰りにお弁当の本を買おうなんて思ってしまう。

そういう自分がくすぐったいと同時に、藤麻さんへの気持ちもあふれてくる。

ダメだ、浮かれすぎてしまうのを抑えないと。

「そ、そうだ、この前総務部の友達に、藤麻さんと付き合っていることを言ったんです。それでいろいろ話していて思ったんですけど、藤麻さんはわたしとぶつかった日、どんな用事があってあのビルにいたんですか?」

お弁当のから話題を逸らしたくて適当に尋ねたのだが、藤麻さんはおにぎりを持っている手を口もとへ運ぼうとしてピタリと止まった。

どうしたのかな。わたしの質問、変だった?

「藤麻さん?」

「……ああ、うん、いや、なんでもない」

彼が一瞬、動揺したように見えたのは気のせいだろうか。
わたしに微笑んだ藤麻さんは、いつも通りになっている。

あの日、ビルにいたことを聞いたら様子が変わった。なにかあるのだろうか。
結局、質問にも答えてもらっていない。
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