クールな部長とときめき社内恋愛
ふつふつと怒りが込み上げてきて、気づいたら彼女たちを追い越して目の前に立っていた。「え、なに?」と困惑した様子で立ち止まったふたりを、わたしは唇を引き締めて見つめる。

冷静に思えば、こんなことは気にしなければいいことなのかもしれない。
だけど、どうしても我慢できなかった。藤麻さんもわたしも、想い合って付き合っているのにくだらないことを言われるなんて。

文句を言いたい。しかし、ここでムキになるのはみっともないから、自制しなければと思う自分もいる。
ムッとした顔をしながら立っているわたしに、相手も「なんなの?」と険しい顔つきになったとき、後ろから「友野さん」と呼ばれた。

声に振り返ると、藤麻さんがどうしたのかと言いたげな顔をしてこちらに向かってきていた。
はっとしたわたしは、体の力を緩めてうつむく。近くにいる女性たちも、「あっ、藤麻さん」と照れたような声をだしていた。

「なんか、この人がいきなりわたしたちの前に出てきて、睨んできたんです。行こう、怖いから」

藤麻さんが現れたことに気恥ずかしさを持ったのか、自分たちにはなにも非がないということをアピールして、女性たちはわたしをちらちら見ながら通路を歩いて去っていった。
その姿を見送ったあと、彼はわたしへ視線を向ける。

「なにがあった?」

「べ、別に……」

「教えて。なにか嫌なことを言われたのか?」
< 107 / 151 >

この作品をシェア

pagetop