クールな部長とときめき社内恋愛
藤麻さんはとても心配そうな顔をしている。
彼女たちの前へ飛び出した理由は、言いたくない。だって、藤麻さんが聞いたら嫌な気持ちになると思う。

だけど彼は、話す気になるようにじっとわたしを見つめている。なにかあったのかと、強く心配をしてくれている彼に、なんでもないという言葉は通用しないような気がした。

「ここでは、言いにくいです……」

下を向いて小さな声でそう言ったわたしの手が掴まれる。

「なら、場所を変えよう」

そう言った藤麻さんは、手を引いて歩きだした。誰かに見られてしまうかもしれないと思ったけど、握られている手を見つめながらわたしはおとなしく彼についていった。


藤麻さんと一緒に会社を出た後、そのまま彼の家に向かった。
会社の最寄り駅から電車で十分ほどで、新築の綺麗な中層マンション。藤麻さんがわたしの部屋に来たことは何回かあるけれど、彼の部屋に入るのは初めてだったので少し緊張した。

ひとり暮らしには広いと感じる部屋の中、リビングはテレビ、ソファ、テーブルとシンプルなインテリアで、すっきりとしている。
ソファへ座ったわたしは、キッチンへ向かった藤麻さんの様子を窺いながら、そわそわしていた。

先ほどの女性社員たちとなにがあったのか聞くために、彼は自分の部屋にわたしを連れてきたのだ。でも、彼女たちが話していたことを正直に言ったら、藤麻さんは不快に思うかもしれない。
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