クールな部長とときめき社内恋愛
胸がもやもやしたものでいっぱいだ。
春伸さんが言っていたことを早く逸希さんに確かめて、違うってちゃんと否定してもらいたい。

倉山常務のことを知るためにわたしに近づいたなんて嘘だよ……。

オフィスの入り口まで来たとき、デスクのそばで皆と話している逸希さんが視界に入った。

商談が上手く進んだことを課長もふくめた課の人たちに絶賛されている。
穏やかに微笑んでいる逸希さんのことをじっと見つめていたら、彼がこちらに気がついた。

一瞬口もとを緩めた彼の仕草に、胸がぎゅっとなる。

入り口で動けないまま立っていると、不思議に思ったのか、周りとの会話を少しずつ終わらせた逸希さんはわたしのもとへ歩いてきた。

「どうした?」

首をかしげて尋ねてきた彼に、思うように反応できない。
聞きたいことが頭のなかでこんがらがって、不安な気持ちで彼を見る。

すると、逸希さんはわたしの肩に手を置いて、通路の脇へ移動するよう促した。

「ずっと固まってるけど、なにかあったのか?」

いつもの優しい声だ。こんなふうに声をかけてくれた今までの優しさが、計算だったなんて思えない。

「飲み物を買いにいったら、春伸さんに会って話をしたんですけど」

「……うん?」

わずかに眉が動いた逸希さんを窺うように見るわたしは、冗談を言うときのような心境だった。

「逸希さんは、シャインの倉山常務のことが知りたくてわたしに近づいたんですか?」

そんなことはないですよね、と少しだけ笑いを交えて尋ねると、彼がわたしを見つめて動かなくなった。
焦りと憂いを持ったような彼の瞳が、かすかに揺れる。
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