クールな部長とときめき社内恋愛
ふと、横を見ると兄さんが穂乃恵さんに視線を向けていたようで、それに気づいた穂乃恵さんは焦ったような顔になった。
近くで見ていると余計にじれったいなと、俺は舞花と目を合わせて微妙な笑みを浮かべる。

それから舞花の耳もとへ唇を近づけた。

「さっきフロントに、舞花たちの夕食を俺たちの部屋に運んでもらうよう頼んだから。酒も入れば穂乃恵さんもどんどん調子上がりそうな気がするし」

「ありがとうございます。並田さんが予想以上に緊張しているから、もうずっと心配で」

「俺も、あんなに兄さんのことを意識している穂乃恵さんはじめて見たよ」

ここまで俺たちが気を遣うようなことになるとは思わなかった。兄さん、そろそろいい加減にしてくれよ。

「なんのための旅行なのか、わかってるよな」

男湯ののれんをくぐり脱衣場に入ると、俺はため息交じりでそう言った。すると兄さんは、眉を寄せながらも「ああ……」と返事をする。

もしかして、兄さんなりに葛藤しているのか?

「……今までの距離感も悪くないって思うから、難しいんだ」

先に服を脱いで湯へ向かった兄さんを、俺はじっと見つめていた。
それが兄さんの本音か。
確かに、気持ちを伝えて相手の想いも受け止めたら、関係は変わる。今までのつかず離れずの距離が心地よかったなら尚更、進むことに勇気がいるっていうのはあるかもしれない。

それでも好きなら、自分の手で幸せにしてやるべきだろ。
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