クールな部長とときめき社内恋愛
「それは俺? ……ではないか。弟がなにか悪いことをした?」

突然響いた声にビクッと肩を揺らしたわたしは、声のした方へ振り向く。
誰もいないと思っていたのに、出入口に藤麻さんの兄、春伸さんが立っていた。

まずい、今の言葉を聞かれてしまった。
昼間は沢本くんたちに絡まれたし、今日はついていない日なのかもしれない。
焦って声も出せず固まっていると、春伸さんがわたしへ近づいてきた。

「この前、逸希と一緒にいたよな。あいつに追いかけ回されて迷惑している?」

「い、いいえ、違います……」

どうしよう、よりにもよってお兄さんに聞かれてしまうなんて。
究極の気まずさだ。藤麻さんとは違う冷たい雰囲気に、緊張してしまう。

「からかわれたりして、ちょっと困るなと思っているだけで……」

なるべく穏やかに言おうとしていると、春伸さんはわずかに口もとを緩めた。

「君を構うのが楽しいんだよ」

結局、からかってくるのは面白がられているってだけで、他に特別な感情があるわけではない。
そう思うとなんだか胸がチクリと痛んで複雑な気持ちになる。

すると、春伸さんは見透かしたように小さく笑った。

「もしかして、逸希のことが気になるのか?」

「そ、そういうわけじゃ……」

図星を指されたわたしは、隠せず慌ててしまった。
そんなわたしに春伸さんは目を細める。
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