遠い昔からの物語

すべてが寝静まった夜、目が()えて寝つけないわたしは、寝返りを繰り返していた。

隣の蒲団では、廣子が規則正しい寝息を立てている。

子が流れて以来すっかり弱くなってしまった身体(からだ)に、炎天下での、いくら学童疎開で人数が減っているといっても、腕白盛りの子どもたちを率いての勤労奉仕はさぞきつかろう。

どんなに生意気な男の子であっても「軍神の妻」である廣子には一目置くらしい。親御さんたちも畏敬の念で接してくれるそうだ。

満洲にいる上の従姉(いとこ)の典江は美人でなんでもよくできてしっかりしていたから、少し近寄りがたい雰囲気があったが、隣にいる下の従姉の廣子は歳も近いし、小柄で可愛らしくおっとりしていたので話しやすかった。

わたしが帰省したときには、「廣ちゃん」「安藝(あき)ちゃん」と呼び合って、まるで友達のように仲良く過ごした。

今も、わたしがこの地の言葉に囲まれて、ちょっと疎外感を持ちながら暮らしているのを気遣い、東京の言葉で話してくれている。

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