遠い昔からの物語
その日の夜、わたしは隣で床に就く廣子に声をかけた。
「廣ちゃんは、泉邸ってところへ行ったことあるの」
「どうしたの、急に」
廣子は面喰らっていたが、しばらくして、
「……結婚して初めての休暇のときに、基地から帰って来たあの人に、連れてってもらったわね」
しみじみとした口調で答えた。今まで廣子から、亡くなった夫の話を聞いたことはなかった。
「ほんとに景色のいいところなのよ。
安藝ちゃんも一度、行ってみなさいな」
そう廣子は勧めてくれたが、既に断っていた。