遠い昔からの物語
「……えらぁ、上手うなったのう」
くちびるを離した直後に、義彦さんがニヤリと笑って云った。
わたしは上目遣いで彼を睨んだ。
……だれのせいじゃ思うとるん。
初めて肌を合わせた翌朝から、義彦さんは隙をみてはわたしのくちびるを求めた。
いつ何時、向かいの神谷中尉が勢いよく襖を開けて入ってくるか知れないから、わたしはいつもはらはらしながら義彦さんの唇を受けていた。
なのに、彼は「あんとな奴ぁ見ても気にせんでえぇぞ」と云って、一向に構わない。