恋愛ノスタルジー
*****

三十分後、画廊近くのカフェでRyo.Sakaki……榊凌央(さかきりょう)さんは大きく溜め息をついた。

それから、運ばれてきたコーヒーに顔を近づけてフワリと笑う呑気な画廊の主人に目をやり、苦々しく眉間にシワを寄せる。

「……お前、頭……大丈夫か?」

「大丈夫ですっ」

真剣さを分かってもらいたい私はブンブンと頭を縦に振った。

「おい、アキ!このコを止めろ」

アキと呼ばれた画廊の主人は、私を見てニコニコと笑っているだけだ。

何故かその笑顔に背中を押された気がして、私は榊凌央さんを真剣に見つめた。

「狂ってるわけじゃありません!本気なんです!私、何でもします。掃除、洗濯、買い物、それに画のお手伝いだって!だからお願いです。あなたの三ヶ月間を私にください!」

「参ったなあ。峯岸……彩さんだっけ?画に詳しいの?何で三ヶ月なの」

「そ、れは……その、」

言いたくない……。

三ヶ月後に結婚なんて絶対に言いたくない。

グッとつまる私に榊さんは訝しげに顔を傾けた。

「なに、言えないの?それとも三ヶ月後に日本を離れるとか?」

「そ、そうなんです!私、転勤族で」

上手い嘘を思いつけなかった私は、咄嗟にその言葉に乗っかってしまったけれど罪悪感はなかった。

「サラリーマンのオッサンみたいだな」

「そうなんです!うちの会社、女子にも容赦なくて」

結婚するのを知られるよりはオジサンのがマシだと思った。

「あなたの画をアキさんの画廊で見てファンになって、それでもしよければ三ヶ月間、お手伝いさせてもらえたらなと思いまして」

「ふーん……んー……」

「お願いします!」

「ダメ」

「どうしてですか?!」

必死で見上げる私に、榊さんは少し眉を寄せた。
< 23 / 171 >

この作品をシェア

pagetop