恋愛ノスタルジー
それからジャケットを脱いで手早く袖をまくると、

「下がってろ」

「はい。すみませ、ん……」

ああ。もう最悪の気分だ。

ガラスを綺麗に片付けて最後にテーブルを拭くと、圭吾さんは無言で私を見つめた。

「……」

「……ありがとう……」

「何があった」

「……なんでもないでしゅ。あ、でし。で……す……」

圭吾さんが眼を見開いて私を見た。

「ごめんなたい、あれー、おかしゅいな。ちゃんと喋りゃにゃ、」

ダメだ、喋れば喋るほどろれつが回らなくなってくる。

「えーっと……」

案の定、圭吾さんは地球外生命体でも発見したかのように私を凝視した後、

「後で聞くから水を飲んで待ってろ」

「はい……」

圭吾さんがバスルームに消えた後、私はペタンとラグの上に座り、ローテーブルに突っ伏した。

ああ!更に嫌われてしまった。

酔ってるけど…水を飲んでおけって言われたのは分かってる。

「水……」

ふとボトルを見ると、まだワインが残っている。

……あと一杯分くらい?でもコルクはもう入らないし、ワインキーパーなんてあるかどうかも分からない。

そこまで考えた後、さっきの圭吾さんの顔が脳裏によみがえった。

……水を飲んで待ってろっていうのは、それ以上飲むなという意味だ。

でも……凌央さんにもらったワインを捨てるのは嫌。

それに、確かに語尾を噛んじゃったけど私はそんなには酔ってない。

だってほら、明日の予定は麗野タウンのwebページの最終チェック会議。で、それをクリアしたら新聞の折り込み広告と同日に公開予定なのも分かってる。 

それにあと一杯飲んだところでさして変わらないに決まっている。

「……」

……いいや、飲んじゃえ。

私は少しバスルームの様子を窺った後、ボトルを引き寄せるとそのまま口をつけて飲み干した。
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