恋愛ノスタルジー
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「どこに買いにいく?」

車に乗り込んだ私を見ず、圭吾さんは少し掠れた声でそう問いかけてきた。

国産の高級車は、スタイリッシュなスポーツタイプで、見目麗しい圭吾さんによく似合っている。

なんか、緊張するなあ。

「僕は食材を買いに行かないからどの店がいいとか詳しくないんだ」

でしょうね。買い物カートから一番遠い人種だもの。

「そうですか……じゃあ、大通りに出て星霜百貨店を目指していただいていいですか?その地下の食材店なら、色んな物がありますから」

以前美月をそこに連れていったら、

『何ここ!トマト一個が900円!?セレブはこんなところで買い物すんのか、ちきしょう!』

なんて毒ついていたけれど、それは美月がオーガニックコーナーに迷い込んでいただけだ。

「分かった」

車に詳しくない私は、圭吾さんの車の車種は分からない。

道路は混んでいて、いくら速そうなこの車もアクセルを踏み込む程スピードは出せない。

誰もが目的地へ少しでも早く到着したい中、圭吾さんの運転はとても紳士的だった。

他の車や歩行者に対する気遣いを忘れず、譲られれば手をあげたり、頭を下げたりと感謝の意をちゃんと伝える。

なんか素敵。そう思いつつじっと圭吾さんの横顔を見つめると彼は視線を感じたのか、

「なんだ」

あ、そうだ。

「そういえば圭吾さんはどんな鍋がいいですか?」

「どんな鍋?」

「別に鍋スープを買わなくてもシンプルな鍋なら作れますけど、キムチ鍋とか塩ちゃんこ鍋とかカレー鍋とか豆乳鍋とか……今って色んな鍋スープがあるんですよ」

「……」

いっこうに返事が返って来ないから様子を窺うように運転席を見ると、彼は何故か無表情のまま運転していた。

……まあいいか。店について決めてもいいしね。

私は彼の返事を諦めると、窓の外の喧騒に眼を向けた。
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