御曹司様はシンデレラを溺愛する
優里亜に指定された当日、気がすすまないまま1人立ち鏡の前で振り袖を着ている。
小さな頃から着付けを覚えさせられていたからか、一人で着る事になんの抵抗もなく着付けが完了。
加藤家が所有する高層マンションに住んでいた時とは違い、仕送りが止まってしまった私は優里亜の様に贅沢な生活は出来ない為、系列の今の小さなマンションにお引越しし、優里亜の好意で家賃五万円の1LDKは私の小さなお城だ。
だが、その部屋には不釣り合いな豪華な着物が浮いている。
なぜ、着物だったのだろう?
これが、優里亜の体に合わせて用意されたカクテルドレスなら、サイズが合わなかったからと言い訳して欠席できたかもしれない。
イヤ、それもないか…
優里亜なら、先を読んで私用にドレスを用意していただろう。
鏡に映る自分を見て、何年も着る事がなかったのにとため息で出る。普段なら覚えている自分を褒めてあげるところなのに、今は着れてしまった自分が憎らしい。
優里亜の為に用意された着物は、私には似合っていないから余計にため息が出てくるのかもしれない。
癖のない真っ直ぐな黒髪が浮いている気がしてならなかった。