国王陛下の極上ティータイム
「失礼いたします」
茶葉を購入して市場から戻ったクラリスは、茶を淹れるとランティスの執務室に向かった。台車には紅茶と菓子を乗せて。
「…クラリス」
ランティスは仕事漬けだった。大量の資料が執務机とその横のチェストの上に積み上げられている。
疲れ切った様子はその仕事の大変さを物語っていた。
「クラリス殿、わざわざありがとうございます」
「ディオン殿こそ、お疲れ様です」
国王側近のディオンにも疲れは出ている様子だった。ディオンの分の茶も用意してきて良かったとクラリスは思った。
「クラリス、どうしてここに…」
「どうしてって、ランティス様が頼まれたのでしょう?」
クラリスは茶と菓子をランティスに差し出した。
「午後の茶でございます」
ふうわりした甘い香りが執務室に広がる。けれどそれは今までにない香りだった。
「これは…グレーズ?」
ランティスはティーカップを近づけて匂いを嗅いだ。
その様子がおかしくてクラリスはくすりと笑って首を横に振る。
「フレーバーティーにございます」
ランティスとディオンは顔を見合わせて首を傾げた。聞いたことがないと言わんばかりの表情だった。
グレーズは紅茶に果物の果実を絞り入れたもの。対してフレーバーティーは茶葉それ自体に果物や花の香りをつけ、乾燥させた果物を茶葉に混ぜて淹れるのだ。
「先ほど城下町の紅茶屋より頂いたものです」
紅茶屋の店主にフレーバーティーをいただいたときから思っていた。真っ先にこれを味わってほしいと思ったのはランティスだった。