エリート医師のイジワルな溺甘療法


私の前を、人の腰までもある大きな犬を連れた金髪の女性が通っていく。

犬も人も上品な雰囲気で、一軒家なら豪邸、マンションだったら上層階に住んでいそうな感じだ。

通りざまに目が合ったので、にこっと笑って挨拶をされる。私も挨拶と接客スマイルを返した。

歳は五十代くらいで、おだやかなご婦人。

英語だけどゆっくり話してくれるので、へなちょこスキルの私でもなんとか理解ができる。

彼女は、脚はどうしたの?と訊いているのだ。

踏み台から落ちて骨折したと説明したいけれど、上手く話せない。

脚立は英語でなんて言うんだっけ? 骨折はどう言うの?

身振りを交えてなんとか伝えていると、犬が私に興味を持ったようで、松葉杖に鼻をよせてくんくん匂いを嗅いできた。

脚の匂いも嗅いできて、ハッハッハッハと荒い息づかいで舌を出し、つぶらな瞳で私を見つめてくる。

なにを考えているのかさっぱり分からないから、動くこともできずに困ってしまう。

犬は嫌いじゃないけれど、この子はサイズが大きすぎて迫力がある。

だって、座っている私と目の高さが同じくらいなのだ。

いきなり飛びついてきたらどうしよう。吠えられたら怖い。

そんな私の様子を感じ取ったのか、飼い主の女性がビシッと犬をたしなめ、『迷惑をかけたわね、ごめんなさい。脚を大事にしてね』と言って、犬を引っ張っていそいそと離れていった。

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