エリート医師のイジワルな溺甘療法


痛すぎて滲んだ涙をぬぐいながら起き上がって、松葉杖を手にする。

もう心身ともにクタクタだ。

ぐったりしている私に対し、先生はデスクに戻りながら爽やかに笑う。


「早くそれを取りたいと言ったのは、瀬川さんだろう?」

「はい……仕事に復帰したくて。でも、こんなんじゃ無理ですよね」

「ああインテリアショップだったな……基本的に立ち仕事か。自宅から遠いのか?」

「坂下町なので、片道三十分です」

「ん? ……坂下町の、インテリアショップ?」


先生は少し驚いたような感じで私を見ている。坂下町は、この病院のある中町の隣だけれど……。


「はい、『マホガニー』ですが。どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。そうだな、無理のない範囲で仕事をするのはいいことだから、徐々に始めるといいんじゃないか。勤務先と相談するといいな」


先生はカルテにペンを走らせながら、また経過を診せに来てと言う。

まだ安西先生に会える日は続くのだ。

うれしいけれど、完治が遠いのは哀しい気もする。

複雑な気持ちを抱えながら次回の診察予約をして病院を出た。


今は春。

穏やかな日差しが降り注いでいて、暑くもなく寒くもないちょうどいい気温だ。

怪我をしたのは分厚いコートが要る時期だった。

入学や転居で家具を買う人が多くて忙しい時、倉庫の棚から商品を取ろうとして脚立に上り、思ったよりも箱が重くてバランスを崩して、落ちた。


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