エリート医師のイジワルな溺甘療法
離れていく彼の唇がぼやけて見えるのは、目に涙が滲んでいるから。
「穂乃花の思考は本当に理解不能だな。そこが楽しくて好きで、もっと深く君を知りたくなるんだ。でも」
「……でも、なに?」
そのあとに続く言葉を、彼の濡れた唇が紡ぐのをぼんやり見つめる。
「“おしおき”は、するからな」
「え!?」
「なんだ、覚悟のうえで、約束をやぶったんだろ?」
彼はイジワルな瞳になって、腰がぞくぞくするような低い声を出す。
普段話すときの声と私に迫るときの声としっかり使い分けていて、結構策士なんだと気づいたのは、抱かれるようになってからのこと。
「でも、ほら、今から出かけないといけないでしょ? このお部屋のものをそろえなくちゃ。ね?」
「ああ、そうだったな……うむ」
忘れていたのを思い出したのだろうか、普段の声に戻っている。
意外にもさっと引いてくれたので、一安心しつつ腕の中から逃れようとすると、顔を胸に押しつけられた。
「ひゃっ」
「今は止めておくけど、約束は、約束だぞ。夜は、絶対に逃さないからな」
支度してくると言い残して、彼はリビングから出て行く。
大きな腰砕けの爆弾を落とされた私は、その場にへたり込むように座った。
私結構がんばったと思うのだけど、それ以上の返しをしてくる。
彼には、一生勝てない気がした。