エリート医師のイジワルな溺甘療法


「そっか。だから、ここを指定されたんだ」


携帯で到着したことを告げて藤棚の下で待つこと数分、彼が病棟の方からこちらに向かってくるのが見えた。

ひとりじゃなくて、誰かと笑顔で話しをしながらこっちに来る。

相手は白衣じゃなく、スーツ姿の女子だ。ふわふわした髪型のかわいい感じの子は、前にどこかで見たような気がする。どこでだっけ……?

じっと見つめていると、その子と目が合ってしまい、あからさまに怪訝そうな表情をされた。


「じゃ、薬の納入は、いつも通りでお願いします」


彼がそう告げているのが聞こえてくる。どうも話を締めくくっている感じだ。

薬と言うことは、あの子が製薬会社の営業なのかな。食事に誘われたことがあるって、前に言っていた。

あの子も、安西先生のファンなんだ。彼を熱い瞳で見上げながらも、私のことを気にしているみたいでチラチラ視線を送ってくる。


「はい。それじゃあ、新薬はとりあえずサンプルで置いていきます。ご検討ください。ところで……先生は、今から仕事に戻られるんですかぁ? もしも休憩されるならぁ、私とぉ」

「いや、俺は今から彼女と逢瀬。じゃ薬の件はよろしく頼みます」

「は? 逢瀬!?」


甘えるように上目遣いをしていたスーツ女子が、酢頓狂な声を出して固まる。

その隙に彼は白衣をひるがえしてこちらにスタスタ歩いてきた。

スーツ女子は私を睨むようにして見ていて、目が合うとぷいっと顔を背けて病棟の方へ去っていく。


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