エリート医師のイジワルな溺甘療法
「穂乃花、待たせてごめんな」
「あ、いいえ。お仕事の話だったんでしょ? 私なら、待てますよ。時間はたっぷりあるし」
ちょっぴりの嫉妬を込めて言うと、彼は腕時計をチラ見した。
「俺の時間がない。ここにいられるのは、あと十分くらいかな」
「そうなんですか……忙しいんですね」
しょんぼりしてしまう。この先食事をする暇がないから、おにぎりを頼まれたのかな。
隣に座った彼にコンビニ袋を渡すと、「サンキュ」と爽やかに笑って受け取った。
「それに、ほとんど雑談だったんだから、気にしなくていいぞ」
「へえ……雑談って、どんな?」
「そうだな、主においしい店の話で、いろいろ情報が入ったぞ。栄町に居心地がいいBALがオープンしたらしい。今度一緒に行こうか」
「BAL? 行きたいですっ」
彼はさらりと言うけれど、あの子に「一緒に行きましょうか」とか「連れて行ってください」とか、誘われていたに違いない。
今私は、彼の鉄壁要塞ぶりを垣間見たのだ。
ひょっとして、前に行ったステーキ屋さんも、もとはあの子の情報だったりして。
それに、そうだ。思い出した。あの子はたしか、指に包帯を巻いていた子だ。診察室から聞こえて来た甘ったるい声と、さっきの声と特徴が似ていたもの。
悶々としている私の隣で、ガサゴソとコンビニ袋をいじっていた彼が、「おっ!」とうれしそうな声をあげた。