エリート医師のイジワルな溺甘療法


「おにぎりも、ありがとな」

「ひとつでよかったんですか? 足りなくないですか?」

「ん、目的は君の補給。だから、これで充分」

「……私の補給?」

「そう、俺は、君に二日も会えていないだろ。だから、穂乃花不足。どうしてうちに来ない?」

「あ、それは、女の退引きならない事情で、しょうがないというか……ひゃあっ」


彼の手のひらが、私のうなじにそっと触れている。

生え際を探るような指使いが、とてもくすぐったい。


「君の事情が退引きならなくても、会いたいと思うのは、俺のわがままか?」


微妙に動く指先と、鼓膜をくすぐる甘くて低い声。

我慢できずに首をすくめると、今度は耳朶をするりとなでられて、声が漏れそうになるのを耐える。

すると、さらに延びてきた指先が、唇の輪郭をゆっくりたどった。

私を見つめる彼の瞳が艶っぽく、キスをしてほしくてたまらなくなる。


「その顔、色っぽくてヤバイな……でも職場だから、ここまで」


パッと私から手を離して、イジワルに微笑む彼が憎らしい。

ピピッと小さなアラーム音がして、彼が腕時計を見て息を吐いた。


「ん、時間切れか。俺は戻るよ。来てくれてありがとう。気をつけて帰るんだぞ。いいな?」


もう普段の声になり、さわやかに笑って去っていく。

彼のスイッチのオンオフは、自由自在に切り替えられるらしい。

中途半端に火をつけられた私は、熱を冷ませないでいるのに。


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