エリート医師のイジワルな溺甘療法


一患者の私がデートの約束を取り付けるなんて、超難関も難関。この上ないハイレベルなミッションだ。

この脚で富士登山するより難しいと思う。


「縁が濃くなるよりも、消滅しそうだよ。気になる人だけど、憧れてるだけだから」

「憧れてるだけなら、振られても傷は浅いじゃない。思い切って玉砕してみるのもいいんじゃない? 骨は私が拾ってあげるし、傷もすぐに回復するよ。たまには自分から攻めてみたら? 待ってるだけじゃダメだよ」

「う……」


そう言われてみれば、そうかもしれない。

私は男女の関係において、自分から行動したことがない。

いつも待っている側で、付き合っていた彼でさえも、私からデートの誘いをした事がない。

ベッドでも日常会話でも受け身オンリーのつまらない女。

それがすれ違いを多くさせて溝を深めてしまい、別れに至った原因のひとつだって、歳を重ねた今ようやく分かってきた。

それでも自分を変えるって難しいことで、先生をデートに誘うなんてハードルが高い。

誘うって考えただけで、胸がドキドキしてしまうのに。

けれど麻友の言う通り、今が自分を変えるチャンスなのかもしれない。

リハビリをがんばって松葉杖が取れたら、先生を食事に誘ってみようか。

骨折をきっかけにして、受け身女から攻める女に生まれ変われる?


「よし、麻友。私がんばってみるよ。玉砕覚悟で、誘ってみる!」

「その意気! じゃあ穂乃花の成功を祈って、もう一回乾杯しよう」


麻友とグラスを合わせ、ワインをくいっと飲み干す。

酒の勢いかその場のノリか。思わぬことで、松葉杖を取るための新たな目標ができてしまった。

けれど、いくらなんでも診察中に誘うのは止めようと思い、誘うタイミングなどを麻友と相談する。

そしてその後も食べて飲んで、おしゃべりをして思い切り笑って、骨折以来久々に夜更かしをしたのだった。


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