エリート医師のイジワルな溺甘療法


素敵な柄がたくさんあって、選ぶのが楽しい。

私が吊り見本を手にして見ている間、先生は店内を眺めていて、ちょっと手持ち無沙汰な様子。

一緒に選んだほうがいいから、問いかけてみる。


「先生は、何色が好きですか?」

「俺は群青色が好きだな」

「意外……具体的な色の名前を言いますね」

「意外とは心外だな。絵の具の中で一番好きな色だぞ。子供の頃は、なんでも群青色を使ってたから、よく先生に怒られていた。特に印象深いのが写生で『実物に忠実な色を使いなさい』って、鬼のような顔で」


校外写生の授業で、昼間の景色なのに群青色の空にしたから、ひとりだけ夜の景色になったそう。

壁に貼られたのはすっきりと晴れ渡った青空の絵。その中で、夜空の先生の絵は、かなり目立ったんじゃないだろうか。想像するとおかしくて、クスクスと笑いを零した。ひとりだけ、空が暗いなんて。


「似たような絵ばっかりの中で、個性があっていいと思ったんだけどな。評価は低かった」

「それはダメですよ。私が美術の先生だったら、0点にしますもん」

「ん、やっぱり君は厳しいな。だが、日本の授業は個性を潰す。良くないところだ」

「だって、写生ですよ? 個性は色じゃなくて“描く物”で出すべきです」


先生はむすっとしているみたい。やっぱりちょっと子供っぽいところがあるのだ。


そっか、先生は群青色が好きなんだ……携帯の色もそうだったっけ。

ベッドカバーを青系にすればあり得なくはないかな。でもそうすると、クッションが浮いちゃうから、カバーを変える?


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