エリート医師のイジワルな溺甘療法


藤村整形外科病院の外待合室には、受付の対角の壁に大きな水槽が埋め込まれている。

中待合に呼ばれるまでの間、この水槽を眺めるのが好き。

ゆらゆら泳ぐ色とりどりの熱帯魚たちと、ぽこぽこと立ち上る泡の柱をぼんやり見つめていると、気持ちが落ち着いてくるのだ。

外待合室には時間つぶしの定番であるテレビが置いてあるけれど、私は一度も見たことがない。いつも、受付側に背を向ける椅子に座っている。

まだギプスをしていた頃は、診察の怖さや脚の痛みが和らぐよう気がした。

呼ばれるまでのほんの数分間の、すごく癒される時間。


「熱帯魚、飼おうかな」


ふとそんなことを考えて、すぐに苦笑する。

どう贔屓目にイメージしても、私の狭い部屋には似合わない。先生のお部屋なら合うけれども。

リビングのインテリアが整ったら、提案してみようか。

先生が夜遅く帰っても、ゆらゆら泳ぐ熱帯魚を見たら、疲れた体も心も和むと思うから。

でも、そっか。先生は忙しいからマメにお世話ができないかもしれない。

だから、すぐにお水が濁っていって……。


「……瀬川さん、中待合にお入りください」


呼ばれたので、松葉杖を手にしてやおら立ち上がる。

同じ時間に呼ばれた人たちに混じって、中待合室にぞろぞろと入っていく。

松葉杖で歩くのもだいぶ慣れて来て、もたもたすることが少なくなってきた。

先生の個人的なリハビリのおかげで脚も順調に治ってきている。

もしかしたら、今日で診察はおしまいになるかもしれない。


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