エリート医師のイジワルな溺甘療法
そんなことを思いながら待っていると、いつもの診察室の中から私の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
先生と会うのは、つい三日前のお買い物デート以来。
あのときのいろいろを思い出して、なんだか急に気恥ずかくなる。
そっとカーテンを開けて中に入ると、そこにいたのは年配の先生だった。
「あれれ?」
「なにかね?」
「あの、安西先生はお休みなんですか?」
「ああ、そうか。あなたの主治医は安西先生だったね。彼は今、救急患者の方に行ってもらっているよ」
「そうなんですか。救急の方に……」
交通事故があったのか。先生がいなくて残念なような、ホッとしたような。
そんな私の気が抜けた感じが伝わったのか、年配の先生は「安西くんじゃなくて悪いね」と言って、ほっほっほと笑った。
白衣の胸に着けられたネームプレートをよく見ると、藤村とある。
もしかして、この人が院長先生なのかもしれない。病院の中で一番偉い人だ。肩書に弱いのは、社会人の哀しいところ。
「いえ、そんなことはないです」
恐縮していると、藤村先生はさらに笑顔になった。
「あなただけじゃないからOK、OK。ほかの患者さんにはもっと残念そうにされたよ。安西くんは人気があるからねえ」
院長先生は私のカルテをさっと眺めて、こちらに向き直った。
「さて、脚の骨折だったね。診せてごらん」