エリート医師のイジワルな溺甘療法
「ついさっき終わった。君の診察には間に合うようにしたかったんだけど、一歩遅かったな。先生は誰だった?」
訊ねてくる先生の語気が強く、少し詰め寄ってくる感じで、ちょっと戸惑ってしまう。
気が立っているのは、手術の直後だからなの?
「藤村先生が診てくださいました」
「ああ院長か……それなら、まだいい、かな」
なにをどう納得したのか、先生はホッとしているよう。
院長先生だから腕は信用できるとか、そんなところかもしれない。きっと先生は、主治医としての責任感が強いのだ。
私としては物足りない診察だったけれど、先生が納得してるなら、あれが正解なんだ。
「先生は、それを訊くために追いかけて来たんですか?」
「いや、それだけじゃないぞ。君にこれを渡すためだ」
先生はズボンのポケットから取り出した物を、私の手の上にのせた。
「先生、これって?」
「俺の部屋の鍵」
「え、え、え、なんで?」
「実はこれからしばらく忙しくなって、一緒に買い物に行けそうにないんだ。そうすると君のリハビリができないだろ? だから、君の仕事が終わったら、俺の部屋に来てくれ。脚を見るから」
「え、で、でも、そんなの迷惑ではないですか?」
「そんなことないぞ。俺は、やると言ったらやる男だ」
口をパクパクさせている私は強引に鍵を握らされ、先生は「じゃ、気を付けて帰れよ」と爽やかに言って去って行く。
あとに残された私は、手のひらの中の鍵をただ見つめるばかりだった。