エリート医師のイジワルな溺甘療法
「ホントに来ちゃったけど、いいのかな」
先生のマンションはマホガニーから見れば駅とは真逆の方向にあって、私の脚で歩くと三十分くらいかかる場所にあった。
『上り坂があるから、タクシー使えよ』
先生には何度もそう言われたけれど、がんばって歩いてきた。
前回来たときは車だったからあまり気にならなかったけど、歩くとかなりキツくて長い坂道だって分かった。
予想外の辛さで、歩いてきたことを後悔しながら休み休み歩き、ようやくたどり着いたタワーマンション。
お部屋の前にたどり着いて鍵を使う段になり、今度は開けることを躊躇していた。
彼女でもないのに先生の留守中に入るのは、いけないことのような気がする。
鍵をもらった日は、本当に私が持っててもいいのかなって、どきどきしていた。
今日の仕事中は、なるべく鍵のことを考えないようにがんばった。
これを私に渡すのは、先生には彼女も好きな人もいないということだ。もしもそんな人がいるのなら、誤解を招くようなことはしないだろうから。
だから、私が合鍵を持ってても、全然かまわないのだ。
先生が渡してくれた理由は、特別なものじゃなく、リハビリのため。
そう、これはギブアンドテイクの一貫。
自分を納得させる言葉を懸命に探して並べ立て、意を決して鍵を使った。