エリート医師のイジワルな溺甘療法
「おじゃま、します」
玄関を開けると、電灯が点っていたからドキッとする。
まさか帰って来てるの?
昨夜出勤日を連絡したときは『何時に帰れるか分からないけど、待ってろよ』って言っていたのに。普通は、私よりも帰りが遅いって思うじゃない。
「先生、いるんですか? 瀬川です」
玄関から声をかけて、耳を澄ませてみるけれど物音がしない。
奥の方にいて聞こえないのかもしれない。それとも寝てる?
声をかけながら廊下を進み、リビングのドアをそっと開けた。
「あれ? 真っ暗だ」
明るかったのは玄関だけで、リビングもキッチンも暗くて、冷たい空間が広がるばかり。
家具もカーテンもないから、余計に寒々しく見える。まるで、誰もいない夜の体育館のようにひっそりしてる。
先生は、毎日こんなお部屋に帰って来てるんだ。
私のアパートも帰れば真っ暗だけれど、こんなに寂しい感じはしない。
それはやっぱり家具があるからで、ぬいぐるみとかお気に入りの小説とかごちゃごちゃ置いてあるけれど、そこで生活しているぬくもりがある。
電灯のスイッチを探し当てて点けても、この部屋の寂しい感じは変わらない。蜂蜜色のあたたかい光なのに……。
帰宅したときに真っ暗だと寂しいから、玄関の明かりは点けたままにして出かけているのかな。
案外寂しがりなのかもしれない。