エリート医師のイジワルな溺甘療法
「え、あの、先生?」
「ごめん。俺が悪かった」
頭の上から切なさを含んだ低い声が落ちてきて、胸がきゅんと鳴る。
先生はなにを謝っているんだろう。
やっぱり合鍵を返してほしい、とか?
「なんのことですか?」
「ずっと立ったままで、疲れただろ。俺は、バカだな」
「あ、そ、それは覚悟していたので……。でも、どうにも疲れていたら、床に座ってました。だから気にしないでください」
「そうか。君は、やさしいな……ちょっと待ってろ」
先生は腕の中から私を開放すると寝室へ行き、すぐに戻ってきた。
手にしていたクッションを壁際の床に置き、私の体をサポートしてそこに座らせてくれる。
「ありがとうございます」
「リハビリは、ちょっと休んでからだな」
先生は私を残して、キッチンへ入っていった。
私よりも、先生こそやさしいのに。
さっきはびっくりしたけれど、強く抱きしめられているわけじゃなかった。
背中を支えるような、いたわるような感じだったから、“ごめん”という感情の表れなのだ。
それ以上の気持ちは、ないんだろうな。
「簡単に作ったが、食うか?」
トレイのうえに、うどんが二つのっている。鰹節がふわふわ踊っていて、出汁の香りに食欲がそそられる。お腹の虫がグーッと鳴った。
「先生が作ってくれたんですか?」
「冷凍だぞ」
ちょっと照れ笑いして言うけれど、ネギと蒲鉾と天かすも入っている。ネギは乾燥ネギじゃなく、今刻んだ物っぽい。
私生活は無頓着な印象だけれど、わりとちゃんと作るんだ。独り暮らしが長いから、かな。