エリート医師のイジワルな溺甘療法


「え、あの、先生?」

「ごめん。俺が悪かった」


頭の上から切なさを含んだ低い声が落ちてきて、胸がきゅんと鳴る。

先生はなにを謝っているんだろう。

やっぱり合鍵を返してほしい、とか?


「なんのことですか?」

「ずっと立ったままで、疲れただろ。俺は、バカだな」

「あ、そ、それは覚悟していたので……。でも、どうにも疲れていたら、床に座ってました。だから気にしないでください」

「そうか。君は、やさしいな……ちょっと待ってろ」


先生は腕の中から私を開放すると寝室へ行き、すぐに戻ってきた。

手にしていたクッションを壁際の床に置き、私の体をサポートしてそこに座らせてくれる。


「ありがとうございます」

「リハビリは、ちょっと休んでからだな」


先生は私を残して、キッチンへ入っていった。


私よりも、先生こそやさしいのに。

さっきはびっくりしたけれど、強く抱きしめられているわけじゃなかった。

背中を支えるような、いたわるような感じだったから、“ごめん”という感情の表れなのだ。

それ以上の気持ちは、ないんだろうな。


「簡単に作ったが、食うか?」


トレイのうえに、うどんが二つのっている。鰹節がふわふわ踊っていて、出汁の香りに食欲がそそられる。お腹の虫がグーッと鳴った。


「先生が作ってくれたんですか?」

「冷凍だぞ」


ちょっと照れ笑いして言うけれど、ネギと蒲鉾と天かすも入っている。ネギは乾燥ネギじゃなく、今刻んだ物っぽい。

私生活は無頓着な印象だけれど、わりとちゃんと作るんだ。独り暮らしが長いから、かな。


< 70 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop