エリート医師のイジワルな溺甘療法


目を開けて見ると、先生の逞しい腕が私の腰に回されていた。


「大丈夫か?」


転ばなくてホッとしたのも束の間、頭の上から安堵したような声が降って来て、急速に体中の熱が顔に集まっていく。

先生の懐にすっぽり収まった私の体。

背中に感じるぬくもりと、先生の背の高さ。

それに、ぐいっと体勢を立て直してくれた腕の力強さを感じ、どうにもときめいてしまう。


「大丈夫です……ありがとうございます」

「気をつけてくれ。ここで怪我が増えたらシャレにならないから」

「そうですよね! どんくさくて、すみませんっ」

「いや、謝らなくてもいい。……そうだな。この状態ならシャーレを付けた方が無難だな」


シャーレ?と訊き返す間もなく、私は椅子に座らされて、先生は今取ったばかりのギプスの細工をし始めた。

半分に切られたギプスに布が被せられ、見る間に踵付きのギプスシャーレが出来上がり、私の脚に包帯で固定される。

これは、来週の診察で状態が良ければ必要なくなると説明された。

先生の口ぶりから判断すると、そもそも必要ないけれど、あんまりにも危なっかしいから、念のために作ってくれたらしい。

再度お礼を言って、そのあと療法士さんの指導でリハビリをして帰途に就く。

松葉杖で生活をしていると、“世の中の便利なはずのものが、時と場合によっては不便になる”というのが、身にしみてわかるときがある。

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