エリート医師のイジワルな溺甘療法
例えばエスカレーター。
自然に動いていくあれは、普通ならば片足を乗せて体重移動をすれば乗れるもの。
でも今の私の場合は、松葉杖を先にエスカレーターに乗せるため、それだけが上がっていって体は置いて行かれるという、なんとも危ない状態になる。
どんくさい私は要領良くエスカレーターに乗れないし、階段も怖いから、エレベーターのある所にしか行けない。
この骨折が完治したら、松葉杖とか車いすの人に対して、すごく優しくなれると思う。
けれど部屋はアパートの二階にあるので、ここだけはがんばって階段を上らなくちゃいけない。
やっとの思いで部屋にたどり着き、へとへとになりながら鞄の中から鍵を出して、ドアを開けた。
そして部屋に入るなりベッドに体を投げ出して、ため息を吐く。
「こんなんで、リハビリに毎日通えるかな……」
先生は、リハビリは来れるときに来ればいいよって言っていたけれど、療法士さんは毎日来た方がいいって言ったのだ。
「こんなとき、車持ちの彼がいたらなー。毎日送り迎えを頼めるのに」
そういえば、四年前に付き合っていた彼は車を持っていたっけ。
デートの時は、毎回お店まで迎えに来てくれた。
けれど、ショップ店員の私と企業勤めの彼とは休みの日が合わなくて、だんだん疎遠になっていった。
そしていつの間にか、彼には同じ会社に勤めている彼女ができてしまった。
『ごめん、別れてくれ』って言った時の彼の辛そうな顔は、今でもはっきりと覚えている。