エリート医師のイジワルな溺甘療法
「それは、先生のせいじゃないです! 暴走した車が悪いんです!」
「そうだ。暴走車が悪い。でも、その時はそう思えなかったな。もしも彼女が勤務を増やしていなければ、事故にあわなかったかもしれない。もしも俺がほかの病院に行っていなければ、救急で運ばれた彼女を助けられたかもしれない。無茶な資金作りよりも、もっと彼女と一緒にいればよかったと、後悔ばかりしたな」
先生は当時のことを思い出しているのか、遠くを見るような目をしている。
しばらくの沈黙が、先生の大きな哀しみを感じさせる。
きっとすごく辛かったんだ。その思いを想像すると、切なくて苦しくて、胸が張り裂けそうになる。
「なにを見ても彼女を思いだすから、辛かったな。そのときちょうど、院長からアメリカ行きの打診を受けて……彼女の面影から逃げだすように旅立った。今思えば、院長は荒んでいた俺を見兼ねて声をかけてくれたんだろうな」
先生が荒んだところなんて、とても想像できない。
けれど、それだけ彼女のことを愛していたんだ。とても私なんか、敵わない。私じゃなくても、こんなの誰も敵わないかもしれない。
そっか、だから先生は、私が自転車にぶつかりそうになって軽口を言った時、あんなに怒ったんだ。