エリート医師のイジワルな溺甘療法
知らなかったとはいえ、私はなんてバカなんだろう。
「私は、先生よりも、絶対に長生きしますから」
だから、だから、そんな哀しそうな顔をしないで。
「悪い、泣かせたな。そんなつもりじゃなかった」
先生が私の顎をそっと持ち上げて、指先で涙をぬぐってくれる。
先生はまだ彼女のことが忘れられていないのかな。
アメリカ人の彼女のことは、私の勝手な思い込み? 今は、誰も先生の心の中にいないの?
「だから、俺は、君に過保護になるんだ」
先生の顔が徐々に近づいてきて、私の唇に柔らかいものが触れた。
吐息から、唇から、先生の熱が伝わってくる。
先生が、どうして私に? 涙を止めるため? それとも──。
「俺は、この手で君を守りたいんだ。分かった? だから、今度買い物に行くときは……ん? なんか忘れてるな」
先生の動きがピタッと止まって、私の顔をまじまじと見つめる。そして、私もハッと思い出した。
「肉じゃがの材料!」
「ああ、玄関に置きっぱなしだったな」
先生が寝室を飛び出して行って、松葉杖と買い物袋を持ってきた。
「うん、肉は腐ってないな……今から一緒に作るか?」
「はい。そうしましょう」
それからは甘い雰囲気になることもなく。先生と協力して肉じゃがを作って、ついでに味噌汁も作って味わって、いつも通りにアパートまで送ってもらったのだった。