エリート医師のイジワルな溺甘療法
「悪い、待たせたな。脚はどんな感じだ?」
「え……っと、少しだけ痛い気がします」
「そうか。骨の痛みじゃないといいな」
そう言って、白いボードに差し込んだレントゲン写真に真剣な眼差しを向ける。
顎をさすりながら写真を睨む先生の横顔を、私は息を詰めて見守る。
どうか、なんともありませんようにと、心の中で神にも祈った。
まもなく先生はレントゲン写真から目を離し、私の方に向き直ってふわりと笑った。
「診断結果は『骨に異常なし』だ。痛みを感じるのは打ち身だな」
「……そう、ですか。よかったー」
心底ほっとして肩の力が一気に抜ける。
やっぱりいったん杖にあたったのがよかったのかな。
カートがぶつかった場所は痣ができていたので、それに塗る軟膏を処方されることになった。
診察も終わったので、お礼を言って立ち上がる。
いつもなら「お大事に」と言われるのだけど、今日は違っていた。
診察室から出る間際、後ろからスッと抱き寄せられた。
「約束してなくても、自由にうちに来てくれ。今日も、明日も。毎日でも」
耳元で囁くように言われて、首筋がぞくぞくっと震える。
「返事は?」
耳をくすぐるような低温で、声だけで腰が砕けそうになる。
帰り間際にこんな爆弾しかけて来るなんて、鉄壁要塞が動くと破壊力が半端じゃないのだ。
私は、「はい」と小さな声を出すだけで精いっぱいだった。