【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「へぇ……。あたし、声だけはモテモテだ」
思わずそうつぶやく。
「はは、声だけモテるんだ?」
あたしのひとりごとを聞いた先生は声を出して笑った。
「リョウくん、あたしの声と好きな人に声が似てるらしいんですよ。だから、紛らわしいって言われちゃった」
あたしがおどけてそう言うと
「西野が……?」
リョウくんの名前を聞いて急に先生の顔が強張った。
普段見せることのない厳しい先生の表情に思わずあたしは不安になる。
「先生? どうかしましたか?」
「いや……」
先生は何か考えるように少し戸惑いながらあたしの顔を見た。
「上田、変な事聞いてもいいか?」
「はい……?」
「西野が最近腕にしてるあの茶色いやつって、お前のじゃないよな?」
「茶色いシュシュですか? 違いますよ。たぶん、リョウくんの好きな人のだと思います」
あたしがそう言うと先生はそばにあった机に力なく腰を下ろした。
「そっか……。あの西野が、か……」
先生はつぶやきながら右手で眉間を押さえるように顔を隠して、ゆっくりと長いため息をついた。