【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
 
なんで先生がショックを受けているのかがわからなくて、あたしはためらいながら先生に声をかける。

「……先生?」

どうしたんですか?
あたし、なにか悪い事言っちゃいましたか?

そう言って聞くのもためらうほどに、なぜか、先生は傷ついているみたいで……。

その時、

「すいません、加藤先生今いいですか?」

強面の生活指導の先生が険しい顔で教室に入って来た。

「あ、大丈夫ですよ。どうしました?」

パッと顔を上げ振り向いた加藤先生の顔は
もう、いつもの教師の顔。

「ちょっと、先生のクラスの西野のことで……」

不機嫌な態度を隠そうともしない生活指導の先生の言葉に、加藤先生の顔つきが変わった。

「上田、今日は手伝いもういいわ。せっかく残ってもらったのに悪かったな」

立ち尽くすあたしにそう言ってもう帰れとカバンを渡す。

「……いえ」

先生からカバンを受け取りながら、心臓がドキドキしている事に気づいた。

リョウくんが、どうかしたの……?

不穏な雰囲気に不安を抱えながら、あたしは先生に軽く会釈をして教室を出た。

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