【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
教室の扉をゆっくりと閉めながら中にいる二人の話にそっと耳を澄ます。
「生徒の保護者からの電話で、うちの三年の生徒が夜飲み屋で働いてるらしいじゃないかって苦情がきまして」
「それが、西野だって事ですか?」
低い声で話す二人の会話に、どきん、と心臓が震えた。
「他にいないでしょう? この受験を控えた時期に。
普通のバイトならまだしも、アルコールを提供する店で働いてるってのはまずいでしょう。西野は以前から問題ばかり起こしてましたし……」
私は汗ばむ手で音をたてないようにゆっくりと扉を閉めた。
……どうしよう。
もしリョウくんがバーで働いてるのがバレたら一体どうなるんだろう。