【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 

あたしを見下ろす彼の顔はぞっとするほど冷たくて、まったく感情が読み取れなかった。
気怠そうにゆっくりと顔にかかる黒い髪をかきあげ感情のない綺麗な顔で笑う。

「彼女じゃない」
「え……?」

びっくりして顔をあげたあたしにリョウくんはゆっくりと近づいた。

微かにあがった口角とあたしを見下ろすように斜めに傾げた顎のラインが色っぽくて
冷たく笑うリョウくんが怖いのにすごく魅力的で
あたしは金縛りにあったみたいに瞬きも忘れてその場に凍りついた。

「体の関係があっただけ。ろくに話もせずに、俺に抱かれに来るだけの女。
ちゃんと真面目で優しくて堅実な婚約者がいて結婚前に少し遊びたかっただけだったんだろ。
バカな女だった」

あたしの耳元で低く響くリョウくんの声。

「お互い、愛なんてなかった。もう会う事もない」

感情を押し殺したような掠れた冷たい声にぞくりと背筋が震えた。


嘘だよ、そんなの……。
愛なんてなかったなんて。

だって、リョウくん保健室であたしにしたキスすごく優しかったもん。

あたしを由佳さんと間違えて、そして触れた唇も指先も。
あたしが愛されてるんじゃないかって勘違いしそうになるくらい……


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