【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「でも、学校退学になんてなったら家族の人だって心配するし……」
必死に彼をひきとめようとそう言うと、リョウくんはゆっくりと目を伏せゾッとするくらい冷たい顔で小さく笑った。
「誰も心配なんかしないよ」
「でも……」
そう言いかけたあたしにリョウくんはゆっくりと近づいた。
玄関の扉の前に立つあたしの身体を冷たいドアに押し付けて
耳に唇が触れそうな距離で
「幼い頃から毎日子供を虐待するような親が、今更退学くらいで心配すると思うか?」
低く笑いながら囁いた。
「ぎゃく、たい……?」
リョウくんの綺麗な唇からでた恐ろしい言葉に
思わず体が凍りつく。
そんなあたしを見てリョウくんはくすりと小さく笑った。
「物心ついた頃から親になんて殴られるか罵られていた記憶しかない。中学の時に家を出てから、もう連絡も取ってない」
まるで他人事のように冷めた口調でそう言った。
あたしのことをまっすぐに見つめる黒い綺麗な瞳。
その奥にある暗い影にあたしは言葉を無くした。