孤高なＣＥＯの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない

「佐織？」


　しっかりと名前を呼びつけられ、はっとして夢から覚めたようにぱちぱちと瞬きをした。


「あっ、は、はい、大丈夫です……っ。
　こういうお店は初めてで、なにを注文すればいいかわからなかったので助かります。ありがとうございます……」


　横並びのソファに浅く腰かけ、隣の社長へ体を向け直す。

　初めての場所に緊張した腕を膝につっぱらせて、恐縮するように首をすくめた。


「ここは雰囲気がいいな」


　ぐるりと首を巡らせて広い店内を見渡す社長も、このお店は初めてだったようだ。

　どうやってこんな素敵なお店を見つけたのか聞くのは野暮というものだろう。

　尋ねればきっとため息を吐かれるに違いない。

　それでも、この大人な空間にしっかりと馴染めているなんて、さすがはハイレベル男子だと感心する。

　横から見る滑らかな鼻筋にもうっとりとしかけていると、ウエイターが「お待たせいたしました」と薄い黄色の液体を揺らしたグラスをふたつ、そばのローテーブルに並べてくれた。