孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
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 タクシーに揺られ行けども行けども都会のようなビル群はなく、ちょっと高い建物が見えたかと思ったら、そこは地域の庁舎だったりするていどの田舎町。

 去年のお正月に帰省して以来だから約二年ぶりの故郷だ。

 漁港が多く見えてくると、まもなく私の実家がある。

 私が一方的に抱えている実家とのわだかまりが迫り来るようで、押し込めていた緊張感がせり上がってきた。


「佐織」


 車の揺れにもびくともしないように背筋を伸ばした私に、社長が突然名前を呼ぶから緊張に張り詰めていた胸がバクンと弾けた。


「は、はい……っ」

「通訳、頼むぞ」


 声の裏返った私に優しく目を細めてくれる社長。

 車窓の流れる景色を背景に、絶大な頼もしさを見る。

 同時に、私を必要としてくれているとわかるたった一言が、心をぐっと奮い立たせた。

 ひとりでここへ帰って来たときとは違う。

 ちょっと強引な手の引き方だったけれど、社長がついていてくれるというだけで、安心感を抱いたことは確かだった。
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