孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 でも、反論はできない。

 図星だから、胸が痛い。

 たとえ、帰ってきたとしても、私はこの場所に絶対的に必要不可欠だという存在にはなりえないんだから。


 肩身狭い思いを感じ、なにも言えずにうつむく。


「佐織、オレはな……」


 こんなに責められるようなら帰ってくるんじゃなかったと、視界がじわりと滲んできた。

 胸がジクジクとした痛みに襲われていると、


「佐織」


 私の名前を呼ぶすっかり馴染んだとても聞き心地のいい声が、耳に飛び込んできた。

 はっと顔を上げ向けた視線の先にいたのは、心の中に思い描いていた人。

 泊まる部屋に案内されていたはずの社長は、私のすぐそばまで歩み寄ってきた。

 真っ直ぐに私を見つめてくれる切れ長の瞳に頬は上気する。

 痛んでいた胸はふんわりとあったかなものに包まれた気がした。
< 142 / 337 >

この作品をシェア

pagetop