孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「夕食、一緒にどうだ? 宿泊はしなくても食事はできると聞いた。これから用意してもらうが、どうする?」


 さっきまでの冷徹な社長の顔はそこにはなく、いつになく穏やかな声で私を誘ってくれる。


「ここではカニが食べれるそうですね」


 微笑むというより、ただ目を細めただけの視線を大和へと向ける社長。


「は、はい、ワタリガニの一種で、きっとご満足いただけるかと……」


 隣にいる私にもわかった。

 目に見えない圧を感じたのだろう。

 大和は、少し怯えたように答えた。


 社長、なんだか怒ってる……?

 どうして……


「それは楽しみです。佐織はどうする?」


 私に視線を移した社長の妙に落ち着いた声音に、逆に違和感を覚える。

 だけど、私に対しては圧を消し、初めて見るやわらかな雰囲気に、鼓動が小さく跳ねた。
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