冷徹社長の容赦ないご愛執
「ご両親が待っているようだったら、無理することはない」

「いえ、夕飯までどうするかは言ってなかったので……」


 大和に責められ、自分の故郷なのに居心地悪く感じていた。

 そこに現れた社長。

 彼の存在感は、ジクジクとしていた胸の痛みを鎮めてくれる。

 目の前にいる人のすぐそばに、私の居るべき場所が見えた気がした。


「あの、ぜひご一緒に……」

「橘さん」


 一歩足を進めれば安心できる場所があるのに、そこへ向かおうとする私を遮ったのは、少し語気を強めた大和だった。


「義姉がいつもお世話になっているようで、ご迷惑などおかけしていないでしょうか」


 身内としての常套句を社長に向ける大和の抑揚のない声に、顔を上げる。

 にこりともしていない表情に、胸がざわついた。
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