孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ふたりの間で沈黙を挟む。

 ほんの数秒の空白が気まずくて、私が先にそれを割った。


「社長、まだ酔ってるんでしょう。ホームシックにでもなりました?」


 まったりとした声の感じから、社長がまだ酒に酔っていることはわかった。

 少し茶化したように言うと、

 
『ああ、そうだな……そうかもしれない』


 素直に認める社長の声の弱々しさが、なぜか妙に可愛らしく思えた。

 いつもとまったく違う社長の様子に、胸が小さくきゅっと音を立てる。

 静かになる電話の向こうで、不意に波の音が聴こえた。

 窓辺にでもいるのだろうか。

 でも社長が泊まっている部屋は六階建ての旅館の最上階のはずだ。

 それにしては、音が近い気がする。


『今日は、月が綺麗だな』


 まだ酔いの冷めていないらしい社長は、いつもよりも口の滑りが滑らかで、珍しく情緒的なことを言った。


「満月に近いんじゃないでしょうか。大潮だと言われていましたし」

『凄いな、月の引力ってのは。来たときは海かどうかもわからなかったのに、今はこんなにあふれそうなくらい満ちてる』
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